Psoas(ソワス)1114足は口ほどにものを言う 秦麻理子 なぜ、バレリーナはトゥシューズを履くと爪先立ちで立てるのでしょうか。あのトゥシューズの中で足の指はどうなっているのでしょうか。 手足を効果的に使って全身で表現するアーティストと言えば、バレリーナ。晴れシー名の爪先立ちのポーズはバレエに興味のない人でも不思議に思っていることでしょう。 バレリーナの命は脚、と思われている方も多いかもしれませんが、実はそれだけではないようなのです。私の友人であり、スターダンサーズバレエ団の団員でもある佐藤真佐実さんに、バレリーナの命について何となく聞いてみたところ、ニジンスキーのすばらしい踊りの秘密は「Psoas」(ソワス)だと教えてくれました。 ソワスとは、太股の付け根から腰、そして背骨までつながっている縦長の薄い筋で跳躍筋のこと。バレリーナの脚に表情が出て、軽やかなテクニックを身につけるには、土踏まずを中心とした足の裏で床を感じることから始まるのだそうです。 それにはまず、足の指を鍛えて床をつかむくらいの気持が肝心で、それによって体の軸を整えることに集中できるのだそうです。 佐藤さんの場合は、軸のスタート地点である足の骨の仕組みを知ってから、足に体重をかけるバランスが変わったそうです。彼女は足首の付け根が踵の骨とその他の6つの骨に支えられていることを知り、姿勢づくりにその足の仕組みを取り入れ始めたのです。そのきっかけとなったのは、「アレクサンダーテクニーク」。解剖学がひもとく運動技法に精神面からのアプローチを加えた本です。神経と筋肉の相互関係を理解するための教科書でもあり、生理学で言う「機能は構造を決する」の意を理解するための図解事典のような本でもあるのですが、海外のバレエ学校では、これらを基礎的な知識としてまず教えることからレッスンが始まるようです。 体の各筋肉を動かす指令は、バレエの場合、足の裏の中心からスタートして腰へ上がり、それによって骨盤の向きを決め、腹筋と背骨でそのバランスを取ります。背筋が伸びたところでソワスの出番となりますが、頭から足元まで伸びた中心となる軸をバランスよく保つためには、腰のあたりの筋肉をソワスに集中させることが大切です。この時、足の裏は縮みながら引き上げられ、アキレス腱は垂直に立ち、自然と腿や脛は立ち上がるのですが、それと同時に意識は、腰の内部へ移動し、骨盤の中へすべてが圧縮されて体重は宙を舞い上がったところで、身体はやっと自由になるのです。 筋肉を鍛える過程でもこのように意識していれば、体のラインも美しくなり、レッスン中の怪我も大事には至らないと言いますから、大切な意識の仕方です。ニジンスキーはきっと、このソワスに対する感覚が誰よりも優れていたため、すばらしいバレエで私たちを魅了することができたのでしょう。バレリーナの脚が、“歌う”ことができるのは、 自分の体を自由にさせる意識のツボをこころえているからなのです。 参照サイト: ロルフィング;http://www.eutonie.net/rolfing/0505.htm アレクサンダーテクニーク;http://www.fili.co.jp/catalog/catalog_001.htm 参照書籍: 「インサイド・バレエテクニック―正しいレッスンとテクニックの向上」 ヴァレリー・グリーグ (著), 上野 房子 (翻訳) /大修館書店 「やさしいダンスの解剖学 」 小川 正三 (翻訳), 蘆田 ひろみ (翻訳) /大修館書店 「バレエ・ダンサーのからだとトラブル」 蘆田 ひろみ (著) /音楽之友社 |